2015年 4月号 no.134 3/3

             鳴鴻渡海


     詩 四首             中国福建南平 陳学樑

      七律・春

  細雨霏霏杜宇啼,春光隠淡蝶児飛。迷蒙嶂色雲辺遠,断続波声瀬下微。
  找楽但求心境濶,消愁不厭酒醪稀。登高望眼塵寰小,却慕山川筑野扉。

      七絶・辛卯年参観中華台商愛国党党部有感

  商家立党樹旗竿,窄小空間划地盤。彼岸莫非民意散,同行相聚不孤単。

      六絶・海外打工者帰家途中

  渡頭倦客登船,帰程千里情牽。家中賢内倚盼,行嚢可有金磚。

      六絶・晩年無病是大福

  閑事任之変幻,無愁自覚心寛。如若不霑病痛,晩年大福平安。


     詩 四首             中国浙江省 夏 凱

      遣 懷

  凈琴水檻月天真,欲見花開已半身。莫遣來年春色好,從來消受便無人。

      讀常州陳濟伯載赍貨貲書示禹含

  滿庭芳草更移裾,朝夕梳妝待問渠。此去錢塘何所獲,一湖春色一船書。

      中宵獨起臨鏡見素絲有嘆

  花氣難消露始多,圓靈水鏡濺光磨。俱安蟻穴論風雨,誰破雲霄齣網羅。
  三伏蠶心裹春夜,千秋星淚迸天河。可憐白髮爭懸瀑,氣壯蒿萊過夢坡。

      雨中偶過龍遊路沙孟海故居

  春縷如絲織錦華,龍遊居子一夢賒。同書寶殿枝頭月,自捲珠簾影底花。
  心味不緣虛竹苦,情腸應是老槐嗟。誰傢墨池清光在,耐得風吹西子沙。

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       詩俳同牀
                         今田 述

  桜咲きさくら散りつつ我老いぬ 高桑蘭更

 高桑蘭更(一七二六~一七九八)は金沢の生まれ。別号を半化坊という。蕪村や暁台と同じく芭蕉復帰をとなえた俳人である。五十歳ごろ京に上り、洛東の西行庵の近くに庵を結び、芭蕉堂と名付けていた。歿する五年前、暁台についで二条家から花の本宗匠の号を賜った。ことに「枯芦の日に日に折れて流れけり」(半化坊発句集)が世に知られ《枯芦翁》と呼ばれていた。この句も淡々とした句だが、咲くときは桜と漢字で書かれ、散るときはさくらと仮名。目で見る仮名混じり文の日本語の面白さを駆使している。
 中国には仮名は無い。全て漢字である。日本の俳句に触発されて漢俳が生まれたが、無論漢字だけだ。日本に関心の高い詩人は、漢字で少しでも日本の風光を捉えようとする。
 二〇〇五年春、中国政府は漢俳学会を起ち上げた。劉徳有という現代日本語に精通した元文化部副部長(日本語で言うと文部次官)を会長としたが、実質漢俳に優れた腕を奮うのは、副会長に就いた四人の詩人、屠岸、袁鷹、紀鵬、林岫が中心だ。その中から、作家でもある袁鷹の京都の桜を詠んだ漢俳を見てみよう。
  
   京都春雨 京都の春雨 袁鷹
 昨夜雨瀟瀟、   昨夜 雨瀟々たり
 夢繞櫻花第幾橋? 夢は繞る 桜花 第幾橋?
 未知帰路遙。 未だ帰路の遙かなるを知らず。

 「花の雨」という季語がある。満開の花に降る雨は切ない。宿で寝てからも夢の中に花が出てくる。三条、四条、五条と幾つの橋を過ぎたであろうか。雨に打たれた満開の花が、どこまでも続いている。もう宿へ帰る道さえも解らないほど歩いてしまった。この一首の漢俳は、実に京都の春を見事に詠んでいる。平安神宮賞櫻詩会で詠まれたのは次の一首。

   平安神宮賞櫻詩会 平安神宮賞櫻詩会  袁鷹
 幸会在神宮。 幸にも会いて神宮に在り。
 裊娜枝垂照眼紅、  裊娜に枝垂れて眼を照らす紅、
 樹樹笑東風。 樹々東風に笑む。

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このとき、林林が詠んだのは次の一首だった。

   京都平安神宮   京都平安神宮 林林
 花色満天春 花色 満天の春
 但願剪来一片雲 但だ願う 一片雲を剪り来り
 裁作錦衣裙 裁ちて錦衣の裙に作らばや

 京都の春を満喫する当時の中国詩人の姿が彷彿とする。


     定型と句の字数・音数
                          石倉秀樹

 日本の仮名まじりに詠む詩歌の定型といえば、短歌と俳句・川柳、それに都々逸ぐらいしか思い浮かばないが、その最長は短歌の三十一字。
 そこで、三十一字以下の詩詞はどうか、ということで、拾い上げてみた。
 詩には七言絶句・五言絶句(平起式、仄起式)、十七字詩があり、
 詞曲では、竹枝、十六字令、閑中好、拜新月、梧桐影、囉嗊曲、雁児落、醉妝詞、慶宣和、黄薔薇、南歌子、荷葉杯、回波樂、舞馬詞、三台、柘枝引、塞姑、晴偏好、憑欄人、十二月、漁歌子、醉高歌、花非花、摘得新、梧葉兒、南歌子、荷葉杯、漁歌子、憶江南、瀟湘神、搗練子、春曉曲、桂殿秋、章台柳、解紅、赤棗子、南郷子、双鴛鴦、采茶歌、寿陽曲、浪淘沙、八拍蠻、字字雙、沽美酒、十樣花、天淨沙、脱布衫、那託令、鵲踏枝、迎仙客、七弟兄、甘州曲、醉吟商、甘州曲、乾荷葉、喜春來、青哥児、四塊玉、胡十八、清江引、秋風清、法駕道引、踏歌詞、抛球樂、出隊子、游四門、憶王孫蕃女怨、一葉落、金字經、節節高、梅花酒、撥不斷、慶元貞、醋葫蘆、青杏児――詞牌・曲牌の数だけで計73の詞譜・曲譜が、定型詩体として機能している。
 日本の仮名まじり詩歌の定型は五本の指に満たず、詩詞のそれは異体を含めおそらくは百はある。この差は短歌や俳句が音数だけを律としているのに対し、詩詞が押韻と平仄を律としているからだ。日本の定型派の俳人や歌人がとかく自らのジャンルにこだわる傾向がある。いつの間にか選んでしまっていた一脚の椅子にいつまでも坐り続ける。これに対し、詩譜や詞譜・曲譜を踏まえ押韻と平仄を兩翼とする漢語詩人にとっては、定型とは、自由な詩精神が縦横に渡り歩く駅亭のごときものだ。
 だから、詩を漢語で詠む詩人は、古人は詠んでいないかも知れないと思えば、押韻と平仄を適宜に調えつつ、新しい定型詩体を工夫することもできる。

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 ということで、詩詞にはない字数については新詩体を考案しつつ、
三十一字以下の短詩を試みてみた。

 <蝶舞蜂螫令>  以下、<>は古典詞曲にはない短詩。無印は詞牌。
  櫻,夢。(中華新韻十一庚平仄両用の押韻)
 <一兩令>
  櫻,春景。(同上)
 <二二令>
  霞洞,山櫻。(同上)
 <二三令>
  櫻雲,花若錦。(九文平仄両用の押韻)
 <三三令>
  櫻雲涌,俳人誦。(十一庚仄声の押韻)
 <二五令>
  櫻花,下馬賞春霞。(一麻平仄両用の押韻)
 <五三令>
  櫻花滿天下,映夕霞。(一麻平仄両用の押韻)
 <四五令>
  櫻雲盛涌,詩翁競鶯哢。(十一庚平仄両用の押韻)
 <曄歌>
  櫻雲涌,詩翁吟詠,競鶯哢。(十一庚仄声の押韻)
 <四七令>
  櫻花怒放,人笑傾觴脱世網。(十唐平仄両用の押韻)
 <五七令>
  櫻雲若絳河,醉叟高歌酒量多。(二波平仄両用の押韻)
 <三三七令>
  櫻雲涌,山鶯哢,俳人得句競吟詠。(十一庚仄声の押韻)
 竹枝
  青春對飲(竹枝)賞朱櫻(女兒),白頭諷詠(竹枝)競黄鶯(女兒)。
 <偲歌>
  登高馳馬,遊目觀花。櫻雲眼下,到天涯。(以下、韻目略)
 十六字令
  櫻,花散如蝶舞午風。傾聽好,黄鳥擅飛聲。
 <漢俳>
  悦目櫻雲似,銀河落下洗山寺。詩人却塵世。

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 閑中好
  閑中好,鶴歩入櫻雲。唱和黄鶯囀,獨傾緑酒醇。
 <十九字令>
  風穿徑,水如鏡。湖邊悦目櫻雲涌,山鶯哢,人吟詠。
 梧桐影
  春日暄,櫻雲涌。花底起波人海生,蜂擁蟻聚遊霞洞。
 <二十一令>
  喜春遊,遶湖畔。欣賞櫻雲在茅店,酒客惜花散,聽鶯囀。
 醉妝詞
  者邊叟,那邊叟。笑入櫻雲走。那邊叟,者邊叟,美醉交紅友。
 荷葉杯
  探勝憩休茅店,傾盞,賞櫻花。醉聽黄鳥囀夕暮,遊目,送金鴉。
 晴偏好
  山櫻花底逢詩虎,醺然帶酒將裁賦。才七歩,尋章摘句如鸚鵡。
 憑欄人
  悦目山櫻花盛開,茅店村醪堪笑買。傾杯洗咏懷,競鶯啼,吟快哉。
 花非花
  花非花,鳥非鳥,有絳唇,陪蒼老。櫻花堪賞促高吟,暫作黄鶯聲美妙。
 南郷子
  欲探濃春,隨風曳杖入櫻雲。香雪飄飄飛四外,人海,蟻聚蜂屯別感慨。
 天淨沙
  櫻花怒放寒村,谷鶯清囀濃春。老叟旗亭小飲,巧押風韻,斷章摘句低吟。
 甘州曲
  喜春風,穿仄徑,賞山櫻,偶得詩想轉多情。覓句仰天晴,送落照、吟詠和啼鶯。
 踏歌詞
  黄鳥鳴春晝,白頭啜酒杯。櫻雲流靉靉,香雪舞霏霏。光景促詩情,諷詠展霜眉。
  一葉落
   曉鳥哢,櫻雲涌,老翁曳杖探花徑。任風艷雪飛,傷情堪吟詠,堪吟詠,鶴歩遊霞洞。

 押韻と平仄の規律すなわち韻律に準拠した詩は、それを踏まえれば詩体を共有できるので、二字以上のすべての字数において、定型詩たりうる。
 これを思うと、日本の定型短歌や定型俳句には、三十一字と十七字という字数を絶対とする考えがあることが、いささか訝しい。

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by kanshiriun | 2015-04-14 08:29 | 2015年4月号
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